催し

微生物機能の戦略的活用による生産基盤拠点

京都大学21世紀COE

 
講演会・セミナー

 

21世紀COEプログラム「微生物機能の戦略的活用による生産基盤拠点」

特別セミナー

「企業におけるバイオ戦略と研究開発」

平成19年6月27日(水)15:30〜17:00
農学部総合館 W314講義室


バイオベンチャーに挑む
欧米及びわが国における天然物創薬の動向
―資源としての菌類の可能性―

奥 田  徹
(玉川大学学術研究所 菌学応用研究施設 教授/株式会社ハイファジェネシス 社長)


連絡先:清水 昌(Tel: 6115)

 
 微生物は生態系のみならず、われわれの経済生活に不可欠である。味噌、醤油、日本酒は言うまでもないが、中でも医薬品への利用では高い成果を上げてきた。第二次大戦以降、細菌感染症の特効薬である抗生物質ペニシリン、セファロスポリンはそれぞれPenicillium chrysogenum、Acremonium chrysogenumの二次代謝産物である。これらのβラクタム抗生物質の基本骨格をもつ医薬品は今日でも広く用いられている。最近の新薬、臓器移植には欠かせない免疫抑制剤シクロスポリン、高脂血症治療薬メバロチン、免疫力の衰えた患者が感染するアスペルギルス症に効力を発揮する抗カビ抗生物質ミカフンジンは、それぞれTolypocladium inflatum、Penicillium citrinum、Coleophoma empetriの生産物がもとである。
 ところが欧米企業の多くは、1990年代から自社の天然物創薬組織を閉鎖し、スピンオフ企業を設立するか売却した。企業を退職した担当者が中心的な役割を果たしている自立ベンチャーもある。米国はこの分野でバイオテク企業、大手企業、政府関連機関が巧妙な棲み分けを行っている。これに対してわが国の企業ではその組織を閉鎖しても社員を配置転換するために、人材が外部に出ず、欧米のように「スピンオフ」した経験者が創業する例が少ない。結果としてわが国の天然物創薬に関するノウハウが外部に流出することなく死蔵されている可能性もある。
 このような状況下で、期待される天然物資源も少なくない。粘性細菌Solangium由来の抗ガン剤エポチロン、海洋スポンジからとれた抗ガン剤ハリコンドリオン、海洋放線菌Salinosporaからとれた抗ガン剤サリノスポラミド、冬虫夏草Isaria sinclairiiの代謝産物からヒントを得た免疫抑制剤FTY720、放線菌Streptomyces platensisからとれた抗MRSA抗生物質プレテンシマイシン、糸状菌Penicilliumからとれた脊髄損傷再生剤SM-216289 (xanthofulvin)など興味深いものがある。